2018年ベストの1冊候補です。
概要
世界中のビッグマネーが流入して以降、
各地のサッカー界はどのように変貌していったか?
政治、経済、移籍交渉、そして地域文化。
現在のサッカー界が内包する問題を、
イタリア在住のジャーナリストである片野道郎氏が、
関連資料や書籍を丹念にまとめ、
"現代サッカー史"と呼ぶに相応しい一冊に仕上げた力作。
感想
語られているのは事実のみ。だから面白い
筆者である片野氏は、個人的な憶測や意見を本書の中ではほとんど述べておらず、実際に起きた事件や事象のみを、淡々と綴っています。
それによって暴かれる事実は決して明るいものではありませんが、
だからこそ刺激があり、読み手であるこちらをゾクゾクさせます。
そして、本書の構成がまた巧みであり、
超有名な“ある選手”の経歴、動向を軸に語る構成となっていますが、
それによって、
現在のサッカー界に点と点として存在している問題のほとんどを、
1人の人間を中心にして繋ぎ、語りきってしまう
あたりは、見事と言うほかありません。
それはまるで、よくできたクライムサスペンス映画のようなカタルシスを感じさせてくれます。
日本人にこそ読んでほしい、“海外サポーター事情”
さらに、その地域に根ざすファン・サポーターへの影響や変化を最後の章に持ってきたあたりにも、本書の計算された魅力を感じます。
この手の問題提起本の大体は、海外リーグを中心の舞台として語るため、
どうしても日本国内のファン・サポーターにとっては対岸の火事のように感じられてしまうため、当事者意識をもって読んでもらうのは困難である、という課題を抱えてしまいます。
しかし本書は、各国の
グローバル展開が遅れたクラブ、そしてそのファン・サポーターの現在はどうなってしまったか
を、それが決してお国柄によるものではなく、万国共通で起こり得る事象であるとして取り上げています。
現在、DAZNによる配信が始まり、世界との差を埋めていこうとしている時期に差し掛かっている日本サッカー界。
その国のサッカーファン・サポーターである僕ら日本人だからこそ、
今のうちに読んでおかなければならない一冊
といっても過言ではありません。断然オススメです。
アルトコ
これからの20年を左右する岐路にいるからこそ
現在のアルディージャの姿は、20年前に応援していたファン・サポーターの皆さんが思い描いていた理想とは程遠いものであるかもしれません。
だからこそ、次の20年はもっと良くするために、
クラブ、チーム、そしてファン・サポーターはこうあるべきだとそれぞれが掲げている時期であり、まだ一方向には固まっていないという状況であると思います。
しかし本書を読むと、
本当にクラブを大きく、強くしていくには、
また20年など悠長に待っていられない
ということが解ります。
世界規模での競争についていけず、ローカル志向となったクラブは、
ビッグクラブ、メガクラブの踏み台、養分としての立場に甘んじるほかなく、
そこからスタジアム内の客層など、環境が悪化していったという事例が語られているからです。
自分の住む地域に根ざしたクラブを愛し、見守る。
それ自体はとても素敵なことですし、尊重されるべきであると思います。
そして、足元をしっかり見つめた堅実な成長も、また大事なことではあります。
しかし、上のカテゴリの存在を一切意識しないことは、
その愛するクラブを衰退させることにもつながってしまいます。
今のNACK5スタジアム、そして大宮公園には
とても居心地のよい、ファミリー感のある雰囲気が流れています。
その魅力を大事にしつつ、
どうすればアルディージャがビッグクラブに成っていけるか。
世界の潮流を語ってくれている本書が、
ヒントを示してくれているのではないかと思います。