【書籍紹介】アイム・ブルー サッカー日本代表「もう一つの真実」

2019/02/10

ツジトモ フィクション小説 書籍紹介 木崎伸也


要素盛り込みまくりでも破綻してない。
良質のエンタメ本。ですが・・・


概要

著者である木崎伸也氏が、
日本代表取材で見聞きした経験をもとに
スポーツナビ』で連載したフィクション小説。
その加筆修正版。
2030年W杯直前に
突如監督交代となった日本代表の
選手や新監督、あるいは協会スタッフら
それぞれの思惑や葛藤がぶつかり、交差するさまを描く。

感想

マンガ感覚で読めるスピード感がマル

もともとWeb連載だったこともあり
短い間隔で話が区切られています。
そのため山場やフックも短いスパンで起こるようになっているため、
小説というよりは、マンガのようなスピード感で
物語が二転三転します。
また、物語展開が、
狙ったのか、あるいは偶然そうなったのかは解りませんが、
本作の挿絵を担当しているツジトモさんの作品である
『GIANT KILLING』を彷彿とさせます。
これらの要素のおかげでサクサク読めるため、
小説に馴染みがない。あるいはまとめて読む時間が作れない方でも
ストレスなく手軽に読める作品となっています。

みんなの中の“こうであってほしい”を体現

個人的にこの作品で最も評価している点は、
最近のフットボール界で起きた
センセーショナル(スキャンダラス?)な話題や事件の
ほぼ全てを物語に取り込んでおきながらも、
どの立場でそれらの事象を見ていた人でも
「そう!あの事件の真相は絶対これだよ!」

という予測、というか希望的観測を叶えてあげている。
ここに尽きると思います。

僕の経験上、
登場人物の立ち位置に白黒つけず、
むやみに「どちらにも理由があるんだよ」を通しすぎた作品は、
えてして八方美人的な結末になりやすく、
結果的にどのサイドから見ていた読者からも
共感を得られずに終わることがほとんどなんですが、
この作品に登場する人物は
(ごくごく一部を除いて)ほとんどが、
その行動原理や思想に対して納得のいく動機付けがされています。
W杯にまつわる日本サッカーのあれやこれやの
出来事や関与した人物を想起させるキャラクター性を
これでもかと盛り込んでおきながらも、
全体的に大きく破綻することなくラストまで走りきっている、
その巧みなストーリーテリングは非常に高く評価されるべきではないかな、
と考えます。

煽り文に要注意

ただし、この作品が純粋なエンターテイメント、
あくまでフィクションであることは忘れてはいけません。
ですが、本書の帯やWebサイトでも強くプッシュされている
『80%の事実と20%の創作』というキャッチコピー(煽り文?)は、
「このキャラクターは絶対にあの人がモデルだ!」「てことは、やっぱりあの事件の黒幕ってこいつじゃん!」
といったような、飛躍した勘ぐりを
いたずらに促しているようにも見えてなりません。
この作品が読み手であるフットボールファンが
長年、腹の底に抱えていたモヤモヤなどの違和感を
一時的に吐き出させてくれる存在であることは間違いありません。
ですが、
それを表に出すのはあくまで自分ひとりでいる世界でだけに
するべきであるし、ましてや本作を誰かの攻撃のための材料として
都合よく使う、などという飛躍した解釈や利用をするべきでは、
当然ありません。
のめり込める世界観が魅力の本作ですが、
現実と憶測をごちゃまぜにされないよう、
お気をつけてお読みください 笑

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